ー細野先生は、最初アニメ関係のスタジオにいらしたとか?
細野●ええ。ただそのスタジオにも、漫画のスタッフとして採用されたんです。そういう人も入れてみようということで。ですから、そんなに人数はいなかった。
ーでは、もしかしてそのスタジオで描かれたものがデビュー作に?
細野●そうです。ですから美術とは全然関係ありませんね(笑)。
ー(笑)では、『ギャラリー
フェイク』の企画は、どういったところから出てきたのですか?
細野●「美術をテーマにした作品をやってみませんか」とスピリッツ編集部から打診があって、スタートしたんです。でも僕は美術畑の人間じゃないもので、その方面は全然弱い。だから最初は、「そんな世界を描かなきゃいけないの!?」と答えたくらいだったんです。本当に申し訳ございません(笑)。
ーそのわりには、主人公の藤田は元メトロポリタン美術館のキュレーター(学芸員)で、贋作作りのプロという緻密な設定ですが……。
細野●ハハハハ。まあ、知識としてメトロポリタンは知っていましたから。あの美術館は一流のうえ、規模も大きいですので、主人公の経歴に入れると広がる感じがしまして。最初はその程度の認識でしたね。
ーすると、作品作りには、毎回素材を調べられているんですか?
細野●そうですね。美術系ライターの方の協力を得ながら、キュレーターとか博物館・美術館の世界の内部のこと、美術品のことなどを調べたりします。
ー骨董品の話も出てきますが?
細野●骨董品はまったくわからない(笑)。ただ、京都や地方に旅行に行ったときはよく見ますね。買わないですけど。市(いち)はその土地によって独特の取り引き形態があったりするんで、ちょっと難しすぎますが…。でも、そんな素人の僕から見て「美術品がこういうふうに見える」、というところから描こうと思っています。だから、世間が立派だと言っても、「実はたいしたことないじゃないか」と思ったら、そう描きます。
ー文化庁の国宝Gメンなど、準レギュラー的な登場人物が何人かいますが、最初から設定のなかにいたのですか?
細野●それはその時々で思いついたものです。国宝などのテーマのときは使いやすいかなと。主人公の藤田ひとりが全部をおさえるのではなく、まわりにいろいろな人物を配したほうが、ドラマとして広がるし、美術というテーマも幅広いので、そのほうが無理がないと思うんです。
ー大金持ちでムスリム(イスラム教徒)のサラちゃんが、藤田のアシスタントという設定は?
細野●偶像崇拝を禁じているイスラム教では、美術品を収集するのは御法度。したがって、美術を扱うムスリムという設定は、ちょっと無理があるんですけど…(笑)。ただ、藤田は本当は質素な生活で、逆にアシスタントが大金持ちというのは面白いかなと思いまして。
ーサラちゃんの資産はどのくらいなんでしょう。
細野●いやあ、それはもう日本人のスケールでは計れないくらい…(笑)。
ー『ギャラリー フェイク』をはじめ、『東京探偵団』など細野先生の作品の登場人物は都会っ子という印象で、都市という人工物のジャングルを自在に駆け抜けるカッコよさがありますね。
細野●ああ、そうですか。確かに地方ではないですね。僕自身も東京の下町育ちですから。藤田も、あんまり体力がないという、ひ弱さがあったりして(笑)。
ー先生のこれまでの作品では、ダジャレがよく飛び交っていますが。
細野●さすがに『ギャラリー
フェイク』では、ダジャレをかましてばかりいられませんが(笑)。でもダジャレは好きです。笑いをスッと入れるとか、キャラクターのおかしみなんかがスパイスとしてあったほうが、ストーリーに弾みがつきますね。
ーお話の終わりは、裏稼業に通じる主人公にとって毎回ハッピーエンドとはいきませんね。
細野●ええ。一応主人公は藤田ですけど、彼は狂言回しのような存在で、美術の話自体が毎回の主役という展開になればと思ってます。
ー読者からの反応は?
細野●『ギャラリー フェイク』の場合だと、キャラクターのファンだという方のほかに、「美術のことがわかる」「いろんな世界がある」と思ってくださる読者の方も多い。僕もその回ごとに勉強しながらやっていますので、こんな世界があったのかと、面白がってくれるのは、とてもうれしいですね。それから、本当はもっとこんなこともあるんだと、僕なりに咀嚼(そしゃく)していますが、全部を出し切らないで、本当にエッセンスだけかいつまんで描いていますので、面白いなと思ってくれたら、あとは読者の方が自分で調べてくれるとうれしいです。
ーストーリーを作るのに、どのくらいの時間がかかるのですか。
細野●アイデアが出て1週間くらいで、だいたい頭のなかでこういうストーリー、こんな展開というのができ、また絵を描きながら資料が足りないとか、いろいろ微調整をしながらという感じですね。思いついたけど海外の話で資料がなくてわからないということもありますけどね。
ーところで「ビッグコミック」誌で、昨年3月から月イチ連載中の『ビールとメガホン』は、どんな感じで描かれていますか?
細野●単行本1冊分を目標に始めたんですが、1冊の本の中で、「いろいろなストーリーが読めた」と思っていただけるような、オムニバス作品になればいいなと思っています。
ーアメリカでお寿司屋さんを営む日本人の話がありましたね。
細野●ええ。そういうところで観ている彼らのドラマを、野球に重ね合わせることができたら、というようなテーマで描きました。
ー毎回まるっきり違うキャラクターなので、苦労はありませんか?
細野●キャラクターは自分に置き換えてやっています。自分の中に生まれてくる様々な感情をそのつど引き出して、それを拡大解釈して描いたりします。ですから、まったく想像できない他人のことは、キャラクターとして登場しません。
ー今後のご予定は?
細野●2月に、海外取材で台湾に行きます。世界四大美術館のひとつに数えられている故宮博物院など、いろいろ見てこようと思っています。実は『ギャラリー
フェイク』の取材として海外に行ったのは、イタリアとイギリスのロンドンだけなんです。
ーそんなものなんですか。
細野●あとは友だちとか知り合いに、こういう写真はないかと借りたりしています。自分で行けなくても、ここはどうだったの、こうだったのと聞いたりしながらね。
ー台湾の取材旅行で、またまた面白いストーリーが展開されるのを楽しみにしています。 |
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